札の絵柄を追うと、日本の一年の植物暦が見えてきます
花札は、遊びの道具であると同時に、12か月の季節感を小さな札に閉じ込めた植物図鑑のような存在です。
1月の松、2月の梅、3月の桜……と見ていくと、札の並びは単なる絵柄ではなく、花や木で一年を覚えるための暦になっています。
このコラムでは、花札に描かれている植物を月ごとに整理しながら、なぜその植物がその月に置かれているのかを見ていきます。
花札には、各月にひとつずつ代表的な植物が割り当てられています。まずは全体を一覧で見てみましょう。
1月の松は、冬でも青々とした葉を保つ常緑樹です。花札では鶴と組み合わされ、新年のめでたさや長寿のイメージを担っています。 松としてはアカマツやクロマツのような針葉樹を思い浮かべるとわかりやすいです。
2月はウメ、3月はサクラ、4月はフジです。まだ寒い時期に咲く梅、春本番の桜、初夏に向かって垂れ下がる藤の花房へと、季節がなめらかに進んでいきます。
5月の菖蒲は、端午の節句とも結びつく植物です。札では「菖蒲に八橋」として描かれますが、植物としてはアヤメやカキツバタの仲間を見分ける入口にもなります。
6月はボタン、7月はヤマハギ、8月はススキ、9月はキクです。花札の月名は現在の花の見頃と少しずれることもありますが、旧暦の季節感や和歌・絵画の題材としての印象を重ねて見ると理解しやすくなります。
とくに芒(すすき)は、月や雁と一緒に描かれることで、花そのものよりも秋の野原の空気を表しています。植物名を覚えるだけでなく、植物がつくる景色ごと覚えるのが花札らしい楽しみ方です。
10月は紅葉です。花札では鹿と一緒に描かれ、秋の山を象徴する組み合わせになっています。身近な紅葉としてはイロハモミジが代表的です。
11月は柳で、小野道風と蛙の絵柄がよく知られています。柳は水辺の木としての印象が強く、シダレヤナギの枝が垂れる姿を思い浮かべると、札の雰囲気がつかみやすくなります。
12月はキリです。桐に鳳凰という絵柄は、年の終わりを華やかに締めくくる特別な札として扱われます。桐は植物としてだけでなく、家紋や意匠にもよく使われるため、花札の中でも装飾的な意味が強い植物です。
花札に描かれている植物は、正確な植物分類を示す図鑑ではありません。たとえば菖蒲の絵柄を見て、アヤメなのかカキツバタなのかを厳密に決めるよりも、水辺の初夏の景色として受け取るほうが自然です。
それでも、札の植物をひとつずつ知っていくと、日本でどの植物が季節の象徴として親しまれてきたのかが見えてきます。花札は、遊びながら植物の暦を覚えられる、とてもよくできた文化の道具です。